聞き手:Yasuko Tanaka, Gasei Endo
文章:Yasuko Tanaka
ANA(全日本空輸)さんといえば、日本最大級の航空会社で、日本人なら知らない人はいないでしょう。今年も、Matsuri Japan Festivalのスポンサーとして協力して下さるシドニー支店の定行支店長に、今後のANAのビジネス展望や「祭り」に対する想いについて、伺って参りました。
祭り編集部:ANAさんはどのようなサービスをオーストラリアに向けて提供していらっしゃいますか? 近年日本への外国人観光客が増え続けていますが、海外の人に向けたANAさんならではのサービスはありますか。
定行支店長(以下、定行):まずは、オーストラリアに敬意を表して、と言いますか、エアラインとしてはごくスタンダードなものなのですが、オーストラリア産ワインを機内でサービングするということは、就航当初からしています。それ以外は特にオーストラリアだから、といったサービスはないのですが、オーストラリアの方でも日本の方でも、まずANAを知って頂く、ということをポイントとしています。2015年に16年ぶりにオーストラリア-日本間が再就航となりましたので、もう一度、私達を知って頂きたい、ということです。
ANAは、就航先には関係なく、サービスのクオリティーを重視しています。空港係員や客室乗務員による、会社のモットーである「あんしん、あったか、あかるく元気」なヒューマンサービスはもちろんですが、「飛行機そのもの」で、どのようなお客様にもハイクオリティーなサービスを提供する、ということにもこだわっています。その点ではボーイング機787には、「従来にない快適性」を求め、ローンチカスタマーとして設計当初からボーイング社と共に開発に携わってきました。例えば、ビジネスクラスのフルフラットはじめ、前後の座席間スペースを出来るだけ広くするために、エコノミークラスでも椅子の背もたれをの快適さを失わずに出来るだけ薄くする、機内を乾燥させない、気圧をコントロールし耳が痛くなるのを防ぐ、時間帯に合わせて照明を調節する、窓を大きくする、ビジネスクラスのトイレにウォシュレットを装着するなどです。これらの過程におきましては、部品を多く提供する日本のメーカーさん達の多大なご協力無くしてなしえないことでした。再就航からこの2年間も、このような点(サービスのクオリティー)をまず知って頂きたい、というのが一番大きなテーマでした。
次のステップとしましては、来月12月からオーストラリア発日本行き間フライトの機内食アンバサダーにオーストラリアの「マスターシェフ」チャンピオンのアダム・リャオ氏をお迎えし、半年間、コラボメニューにチャレンジして参ります。アダムさんは、テレビやSNSを中心に和食を軸として食の素晴らしさを伝える「レストランを持たずして有名な料理人」という、非常にユニークな存在の方です。2016年には農林水産省の日本食普及親善大使にも任命されていらっしゃいます。こういった面で彼は、オーストラリア人の中に「日本」を連想させるInfluential Icon(影響力の高い存在)の一人であるとも言えます。機内食というのは、やはりお客様が楽しみにしていらっしゃる部分であり、そこで一捻り工夫を凝らすということで、よりANAを知って頂くステップにしていきたいと思うのです。アダムさんは日本の食文化に非常に造詣が深く、和食に隠された文化的背景-例えば「お食い初め」や、おせち料理の一つ一つに込められる意味-に惚れ込んでいらっしゃり、今回のアンバサダー就任にもとても快く応じて下さいました。Inspiration of JapanはANAブランドのタグラインですが、食を通じた豪州におけるInspiration of Japanであるアダムさんとのコラボで、豪州の皆さんに何か面白いメッセージが届けられるのではないかと考えました。
また、オーストラリアに向けた視点、という面では、ここ5~6年、オーストラリア人の日本への来訪数が毎年20%以上増え続けていますが、日本では、2年後(2019年)にラグビーのワールドカップが開催されます。オーストラリアは熱狂的なラグビーファンの多い国ですよね。そしてその翌年には東京オリンピック、次の年の2021年もシニアのオリンピックであるマスターズゲームが関西で開催されます。日本で行われるこれらの世界的なスポーツイベントに向けて、更にオーストラリアの方に日本を知ってもらえれば、そして旅客機ビジネスに携わる私達ANAも知ってもらえれば、と思います。先ほどお話した、アダム・リャオ氏とのコラボレーションも、「日本をより一層知ってもらいたい。そして日本を知ってもらうことに情熱を注ぐANAという会社も知ってもらいたい」ということがメッセージとなっています。今回のコラボレーションは特別に、ビジネスクラス、プレミアムエコノミークラス、エコノミークラスの全クラスで提供するんですよ。
やはりサービスの点でのお話となるのですが、ANAさんは赤ちゃんが機内で泣かないようにする実験をされていると聞きました。それについて詳しく聞かせて頂いてもよろしいでしょうか?
定行:そうですね、「赤ちゃんが泣かない」というのは、実際にはもちろん、限りなく無理に近い、とは思われるのですが(笑)…まず、飛行機では国内線なら1〜2時間、国際線なら8〜10時間と非常に長い時間をお客様に過ごして頂くことになりますので、色々な試みで「退屈させない」いうことが重要となってきます。そういった意味で、ANAは、異業種とのコラボも含めた色々なイノベーションにチャレンジしています。また、飛行機というのは、いわゆる移動のための交通機関で、そこでは「公共性」というものが大事になってきます。お客様にはビジネスマンはじめ色々な方がいらっしゃいますので、小さなお子様連れの方はやはりまわりに気を遣われる方が多いですよね。そこで、お子様連れにも気兼ねなく楽しく乗って頂きたいという願いを込めて、この試みは始まりました。
「気兼ねなく楽しい空の旅が出来る」、そんな安心感があるだけで、「今回は飛行機で子連れの旅をしてみようかな?」という気持ちにさせられますね。さて、ANAさんは、SKYTRAX社のワールド・エアライン・レーティングで世界最高評価「5スター」を5年連続で獲得されたと伺いました。高品質なサービスをお客様に提供する上で一番大切にしていることは何でしょう?
定行:一番大切にしていること、それは「安全面」です。「飛行機そのもの」が安全に飛び立ち、着陸する、というのがもちろん、その中核を成すのですが、他にも、例えば空港でのお客様の重いお荷物のお預けが安全に行われているか、機内のシートベルト装着が必要な際はそれを必ず守って頂けているか-お客様にはご不便なことがあるのかもしれないのでしょうが、安全をお守りするためにはそれらは貫かなければなりません-を、最も大切にしています。あとは、ソフトな面ですと、お客様のANAご利用体験が、空港内でも機内でも、どれだけ楽しいものになって頂けるか、という点を考え、一人一人のスタッフがスキルを磨いていく、ということです。不満、満足、感動で考えたら、「期待」に応えて得られるのは「満足」のレベルだと思うんです。ではどうすれば、「期待」を超える「感動」に繋げていけるのか、それを考えるくせを(一人、一人のスタッフが)身につけていけるよう、長年、努力を続けています。このようなコツコツとした歩みが5スターを5年連続で受賞頂いた結果に繋がったのでは…と思っています。
オーストラリアからの旅客を増やす上で何か力を入れられていることや働き掛けはありますか?
定行:日本を一生懸命に宣伝する、ということに注力しています。オーストラリアの方々には日本でのスキーが長年、人気があり、北海道のニセコや長野の白馬が「日本に行く」という代名詞で定着しているほどです。ただ、スキーは冬場だけのスポーツなので、それ以外の季節にどれだけ日本に行って頂けるか、また訪れる場所も北海道や東京、大阪、京都、広島など知名度の高い都市以外の場所をどれだけ知って頂けるか、ということになります。
この働き掛けは、ANAが単独で出来ることではないので、JNTO(日本政府観光局)さんや旅行会社の皆さんと協力しながら地道に進めています。年間を通じ来て頂く、3回目、4回目の訪日でも楽しめるように新しい場所を知らしめていく、などで発展につなげていかなければ、と思います。オーストラリア人の休暇は短くとも2週間、長ければ1ヵ月と、伝統的に長いですよね。日本政府は最近、訪日外国人観光客数を2016年の2400万人から2020年までに4000万人、2030年までには6000万人に達成する目標を掲げましたが、このターゲットとして欧、米、豪の3地域が注目されています。これまでは近隣国の方々の観光訪日に力を入れており、実際、人口の多い中国、台湾、韓国、最近ではタイ、ベトナム、インドネシア、フィリピンなどからも本当にたくさんの方々が訪れるようになりましたが、欧、米、豪は、全体に占める割合としてはまだまだなんですよ。ただ、これらの国々の方々は一箇所の滞在期間が長いんです。そうすると、そこで当然、生じてくる宿泊や飲食などで地場産業の得る経済効果も高くなりますね。政府はそこに気付き、流れを変えようとしているわけです。尚更、オーストラリアに関しては、増え続ける訪日者数を引き続き伸ばし、初めての方々はもちろん、多くのリピーターも育ててゆくべきかと。
日本には長い歴史がある上、文化、食、自然と観光の重要素材が地域ごとにたくさんありますので、それらにスポットライトを当て宣伝に活かして行きたいですね。例えば、地元でもあまり外国人の来ていなかった場所に価値のある文化財があったりするもので、そういった場所に来てもらえれば、そこにもう少し手を入れてみよう、街中のサインをもっと分かり易いものしようとか、地域の受け入れ力をアップさせる相乗効果が生まれてくるのではないでしょうか。
そうですね。仕事柄、日本では外国人のお客様と接する機会がたくさん、あったのですが、私も知らないような場所に観光で行かれたいという問い合わせを頂くこともあり、学ばされることがありました。定行さんから、日本への外国人観光客の方に一押しでお勧めする場所はありますか?
定行:結構、最近はメジャーになりつつありますが、熊野古道、そして東北も手付かずの自然が多く残っており、特にグリーンシーズンや紅葉の季節には、良いと思います。さっきの話に関連しますが、地方には、「こんなところに」といった場所に重要文化財が存在したりするんですよね。ただ、日本の場合、文化財の保存には非常に力を入れる反面、「見せる」ということにはこれからどんどん発展の余地があると思います。これらを見に多くの方々が訪れてくれるようになれば、そこに観光産業が生まれ、雇用が生じ、地方にも若い人が定着するという恩恵が得られるんじゃないでしょうか。やはり、誰しも地元には愛着があると思うんですよ。
「訪日インバウンド(観光訪日)」と一口に言いますが、これにはこういった様々な波及効果があるんですよね。日本がモノづくりによって商品を生み出すのと同時に、「日本そのもの」が商品となる。これは非常に重要なことだと思います。日本には、来訪者の方々の期待に応えられる材料がたくさんありますので、2020年の4000万人、2030年の6000万人といった、先ほどお話したような目標値は十分、達成可能だと思います。
話は変わりますが、使用されている機体について教えて下さい。今はボーイング機最新型の787を使用されていますが、エアバスを使用されるご予定はありますか?
定行:そうですね、ANAは、基本的にはボーイング機中心です。エアバスに関しては、150人ほど乗れる小型A320などを使用のほか、日本-ハワイ間では、2階建てA380機を予定していますよ。
なるほど、有難うございます。さて、2015年より2年間、Matsuri Japan Festivalのスポンサー様としてご支援を頂いていますが、これに関し反響といったものはありましたか?そして、今年のMaturi Japan Festivalには、どのような形で関わりたいと、お考えでしょう?
定行:やはりブースを出させて頂きまして盛況と言いますか、沢山の人に来て頂きました。初めて出店させて頂いた2015年は、就航のちょうど1カ月前の11月でしたので、ANAを再び知って頂くうえで有意義なPRとなりました。また、Matsuri Sydneyに来られる方々はおそらく、日本に興味のある方々なので、「日本を知ってもらう」というANAの働き掛けにとても良い機会となったと思います。今年の参加につきましては、基本的には例年と同様となるとは思いますが、例えば先ほどのお話のアダム・リャオ氏の機内コラボレーションのような、最新情報をお伝えする内容としていきたいと思います。
最後となりますが、Matsuri SydneyにANAさんが期待されることとは、何でしょう?そして、Matsuri Sydneyに対して何か一言をお願いします!
定行:やはり、先ほどお話したように「オーストラリアに日本をもっと知ってもらう」ということでしょうか。そして、ANAはバナー分け(宣伝分担)-カッコよく言えば、その「懸け橋」を担っていきたいと考えています。Matsuri Sydneyを通じて、どのように日本をより知って頂くか。話は飛びますが、「祭り」はある意味、日本を象徴するものですよね。日本全国、夏祭りや秋祭り、そして盆踊りが行われます。こういったことを、もっと海外の方々に知って頂いても良いと思うのです。
何かこう、「祭り」を知って頂けるような、「祭り繋がり」と言いますか…例えば、縁日のスゴさや、祭りの参加者の方々-例えば神輿担ぎの方々の命懸けの情熱を知って頂くような。実際にこちらに来て頂きパフォーマンスするのは大変ではあるのと思うのですが、「繋がり」において何かを知って頂く、というような。「日本を知ってもらう」ということを軸に、色々な工夫が出来ないか、考えてみてはどうかなと思います。
編集後記
定行さんは本当に気さくな方で、始終笑顔でたくさんのお話をしてくださいました。
(また、名刺もとてもユニークで、定行さんの似顔絵とカンガルーが日本とオーストラリアの国旗を持って肩を組んでいるシールが貼られていました。頂いた瞬間、思わず笑みがこぼれてしまいました。)
日本とオーストラリアの懸け橋になりたい、そしてオーストラリアにもっと日本を知ってもらいたい!という定行さんの強い想いは、私たち「祭り」も同じです!祭り開催まで残り1ヶ月となりました。今年も一緒に盛り上げていきましょう!!
※ANAのシドニー~羽田線は下記のスケジュールで絶賛運行中です!
ご利用する機会がありましたら、アダム・リャオ氏がプロデュースされた機内食もぜひ一緒に楽しんできて下さいね~
祭りウェブ 編集チーム
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